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第二章 シェンダー鉱山

「スレイ副総長? このような時間にどうーー」

 王子の部屋前で見張りをしていた隊員二人は、向かってくるスレイ気づき声をかけた瞬間、驚いた。普段、冷静沈着なスレイが息切れをし、肩に手傷まで負っているからだ。

「だ、大丈夫ですか?! すぐに手当を!」

「すまないが、急ぎの用だ」

 王子は寝ている時間だが、今はそれどころではない。スレイは王子の部屋へ侵入し、ベットの脇に立った。慌てた様子のスレイを見て隊員二人も1歩下がって様子を見ていた。

「ナムル、起きろ!」

「うあ? スレイ?……遅かったね」

 ナムル王子はむにゃむにゃと身体を起こした。

「いや、それよりも地下の民に不穏な動きがある!」

「え? 地下の民って……シェルダー人のこと?」

「ああ、今夜中にも王宮にせめにくるようだ」

 王子は目を丸くし、すぐに現状を把握しベットから飛び起きた。

「そこの二人、急いで皆を起こして!」

「あ、はい!」

 部屋の入口で様子を見ていた隊員2人は返事をし、走り去った。

「悪い、お前の言葉の方が王宮内に届きやすいからな」

 スレイは王宮に入り、この事を王妃に一番早く言うべきだと考えが、王妃に謁見を頼むまでには書類を通したりするのに最低2刻(1時間)はかかる。兵を動かすのに自分の言葉では原動力不足を考え、顔パスの王子の所へ来たというわけだ。しかし王子にとっては間違っている判断だと思える。

「スレイはもっと自分が副総長ってことを自覚した方がいいよ」

 服を着ながら王子が言った。不思議そうにこちらを見ているスレイの顔で、(やっぱり自覚がなかったんだ)と軽く睨んだ。

「さっきの二人に限らずスレイが言えば皆すぐに事の重大さに気づくさ」

「そう……か」

「そんな怪我までして、僕のとこに最初に来る必要ないし! まったく!」

 スレイは王子のベットに腰をかけ、自分が冷静な判断ができなくなっていることに呆然としている。その様子を王子は首をかしげて見て、そもそもの疑問をなげかけた。

「むー……ところで彼女は見つかったの?」

「……同行してたが、途中で地下の民に攫われ人質になっている。」

「人質に? どうして?」

「俺が護衛していたことで月陰の王女だと勘違いされたようだ、王女が行方知れずという情報も漏れいた」

「……ネズミのあぶり出しは後にして、彼女を助けないと」

「今夜、ここへ連れてくるはずだ」

「人質にされているとなると、交渉を持ちかけてくるかもね。スレイは彼女の奪還を優先して」

「わかった……すべて俺の失態だ。責任はとる」

「その必要はないよ。地下の民とはいつか決着をつけなくてはならなかったんだし」

 自分の失態に対して咎めることをしない王子。

「彼女の名前は?」

「マカ・ラマエール……」

「マカか、早く会ってみたい」

にっこり笑ったナムルを見てスレイは目を細めた。


「いきなりどうゆうことなのです!? 地下の民がせめてきたとは」

 面会の間で王妃が声を上げた。王妃の前には護衛隊が並んでいる。

「母上、私がまいた種ですので、この一件は私におまかせください」

「どうゆうことナムル? お前が原因なのですか?」

「はい、スレイに交渉をまかせようと思います」

 ナムルはそれ以上多くを語ろうとしない。

「王女がいない時にかぎって……くれぐれもこのことは外部にもれないように。後できっちり話を聞かせてもらうわ、スレイ、頼んだわよ」

そう言って王妃は避難所となっている王宮の地下へ移動した。王子が言う。

「では、ただちに第五部隊は正門へ、他部隊は宮内で待機」


 スレイたち第五部隊は防御服の上に効装具をつけた。

「スレイ、しっかりな」

 門の前で総長に肩を押されたスレイは、肩の痛みに手を当て頷いた。

「皆、聞いてくれ」

 スレイは隊員にことの経緯を話した。これは隣国からの敵襲ではなく、生き残っていたこと月陰域閉鎖区域シェンダーの民が起こした内争であること。そして、自分のせいで人質にされる者が出て、無理な交渉を受けることになる可能性があることを、マカの素性を省いて説明した。そして最後に彼らもこの国の民であり、戦闘になった場合、できるかぎり傷つけないようにと忠告し、「すまない」と頭を下げた。

「少しくらい相談しろよスレイ。ま、事が済んだら酒おごってもらうぜ」

「別にかまわないですよ。戦うの好きですし。」

「命令に従うまでだ」

「怖いけど頑張ります!」

「僕は戦うの苦手なんだけど〜しょうがないな〜」

 それぞれが返事をした後に、スレイは顔を起こして全員の顔を見た。自分の未熟さを痛感したせいか、以前より身近に感じられた。

「ありがとう」

 そう言って笑ったスレイの顔に、隊員たちは顔を見合わせた。以前なら人を寄せ付けず、距離をとっていたスレイが、今では自分たちを信頼し、期待しているように見えた。王宮内の柱に隠れていた王子もまた、スレイの変わりように驚いていた。


 

「ラジェ、王宮の様子は?」

「門に護衛隊が整列してる。情報がばれたみたいだ」

 ラジェはスレイが王宮内に入った事に気づいていない。門を見張っている数人を確認したスレイが、護衛団しか使っていない裏道を通って王宮内に入ったからだ。

「まあいい、こちらには人質がいるのだ」

 そういってガリバンは口の端をあげた。

「俺たちが先に行く、合図があったらお前が先頭になって攻め込んでこい」

「わかった、兄貴、気をつけて」



第三章へつづく



 

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