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第二章 シェンダー鉱山

ー ラーゲンジ卿が反逆を企てていたそうよ

ー まぁ恐ろしいですわね

ー でも先日に大火事で一家全員が亡くなったらしいわ

ー まぁ天罰かしら?怖いわねえ


 スレイは11歳の時にポルコによって月陰王宮へ連れてこられた。


ー 今日からお前の面倒を見るポルコってんだ

ー どうして俺の家族は死ななくちゃいけなかったんだ? お前知ってんだろ!

ー とりあえず落ち着いてミルクでも飲め。上手いぞ

ー ふざけるな! 父さんは反逆なんて起こしてない!

ー ああ、そうだな……スレイ、時には知らなくていいこともある

ー 教えてくれ! 裏に手を引いた奴がいるのならそいつを殺してやる!

ー おいおい、命を粗末にしちゃいけいない。たとえどんなに悪い奴でもだ。家族の死が受け入れることができないのもわかるが、家族の分をお前が幸せに暮らせばいいじゃないか

ー ……あんたに何がわかるんだ!

ー よく聞けスレイ、 確かに、世間の目と事実はことなることがある。でもそれを知ったところで何になる……今のお前になにができる? お前にできるのは親父さんを信じ、強く生きることだ


 その後、当時4歳だったナムル王子と出合い共に時を過ごした。先代月陰王は反逆を恐れ、大臣であったスレイの家族を虐殺したと知らされた。王への復讐心はナムル王子に向けられ、暗殺を企てたこともあった。だが、王子の兄を慕うような眼差しに、いつしか抱いた敵意も復讐心とともに消えた。スレイの心に残るのは、家族を助けることができなかった自分に対する無力さと嫌悪感。


 月日が流れ、王子に対する忠誠心と、家のない子供の自分を拾い、親代わりに育ててくれた護衛団総長ポルコへの恩恵の念を込め、最低基準年齢であった16歳で護衛団に入隊した。1年後、王子の護衛をまかされ5番隊隊長の隊任式で月陰王と2人で話す機会があった。


ー ラーゲンジ卿の息子……彼に似て聡明な目をしているのう

ー 陛下、謀反の罪に葬った家系の子息と面会してもよろしいのですか?

ー ああ、君に復讐心がないことはナムルから聞いておる。しかし、嬉しくはないだろうのう。もう7年か……真実を知りたいか?

ー ……いいえ、私は父の無実を信じています

ー ふむ……これだけ教えておこう。ラーゲンジ卿と最後にかわした約束は”ラーゲンジの名を絶やさぬように”だ。つまり君を守ること。

ー 私を……

ー 君は、君の知らないところで沢山の人間に守られておる。闇を知ればお前を巻き込むことになるから皆が真実を話すことができんのだ。いつでも大臣の称号を戻すことはできるが、今はその時ではない。よくここまで父を信じ、たくましく育ったな。今後もナムルを頼む


 その年の暮れ、月陰王は亡くなった。全てではないけれど、真実を知ったことで以前よりも強く信じることができた。同時にまたも自分の無力さを痛感することになった。


ー ポルコ、今の俺にできることはないのか?

ー 何だ? 副総長にでもなって俺の護衛でもしてくれ!

ー わかった

ー うお? 本気かスレイ? わはは!

(いつか真実を知った時、俺も誰かを守れるように……)


 副総長兼第5部隊長として総長の補佐を担い、人一倍に自分に厳しく、王子と総長以外には決して心を許すことはない。捜索を繰り返すなかで、人の感情が弱みになることを知った。少しでも自分を強くしようと感情を殺した。いつか真実をあばけるように。しかし月日が流れる中で家族の記憶は薄れていった。


ー 俺は幸せなんていらない……家族を忘れたくないんだ

ー 何それ? スレイはわかってない! 今生きてる人間のこと考えないでどーするの? それって死んでるのも同じじゃんか! 僕の前でまたそんなこと言ったら絶交だかんね!


(ナムル王子はそう言うが……知らない内に守られている俺が、幸せになる資格なんてあるのか?)


「そんな時、マカに出合った。始めからすべてを説明するつもりだった。でも、震える肩に声をかけた時。こちらを向いた顔は、今にも泣きそうで、真実を話すのをためらった」


ー お互いに規則を守る必要はない


「規則を守るべきだったのに、目の前の彼女が笑うにはどうしたらいいかを考え、あんなこと言った」


ー ありがとうスレイ


「彼女の無知からでる微笑んだ顔を見て、今度こそ守らないといけないと思った」

 ティアは相づちをとりながらその話を熱心に聞いていた。

スレイは自分が蓋をしていた家族に求める感情を、マカに求めていたことに気づく。そして、マカが自分に母親を重ねたことを思い出し、小さな声で言った。

「……失った者を重ねて求めていたのは、俺の方だ」



 

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