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第二章 シェンダー鉱山

スレイは建物が並ぶ集落に入った。太陽が傾きだしたといっても明るさは昼と変わらないはずなのに、その場所はとても明るいとはいえない。ランプに照らされた建物は輪郭を際立たせている。スレイは一つ一つ端から建物の壁に耳を寄せ、声や物音を聞いてマカの居場所を探している。

「うう」

 街道の突き当たりにある建物から声がする。その建物に入ると中は薄暗く、鉱石をつめた袋がたくさん転がっている。声はその袋の一つから聞こえてくる。

「うう、苦しい……」

 スレイはそれがマカの声だと気づき、急いで上にかかっていた布をめくった。

「マカ! 大丈夫か?」

「あれ? スレイ!? きてくれたんだ!」

 袋から頭を出して、マカはスレイの姿に驚いて言った。

「あ! おねーちゃんみっけ!」

 スレイが立っていた脇から女の子がでてきた。

「見つかちゃった!」

「次はおねーちゃんが鬼……ふあ! お兄ちゃんだれ!?」

 スレイを見た女の子は驚いて後ずさった。ボロボロの服に、痩せた女の子がシェンダーの民であることは一目でわかる。先ほどの女の子の言動から、スレイにはマカが遊んでいるように見える。

「捕まって人質になったんじゃないのか?」

「あ……うん、いちおまだ人質よ」

「何をしてる?」

「えーっと……かくれんぼ?」

 スレイは無表情のまま無言でため息をつく。

「お兄ちゃんもかくれんぼする?」

「いや、俺はーー」

「次はお姉ちゃんが鬼よ! 早く逃げて!」

 スレイは女の子に手を引かれ、建物を出ていった。

「あらら、スレイも強制参加ね」

 そう言ってをマカは楽しそうに言った。

マカは目を伏せて10を数えた後、建物から出てスレイと女の子を捜し始めた。


「ワンッワンッ」

 マカが2人を捜していると、後方からオルクスの鳴き声が聞こえた。振り返るとオルクスが駆け寄ってくるのが見えた。

「ワンちゃん、助けにきてくれてのね? ありがとう!」

「ワンッワンッ」

 一刻も早くこの場を逃げだそうと吠えたつもりだったが、マカに止められた。

「待って! スレイを捕まえないと」

 楽しそうに笑って言うマカを見てオルクスは首を傾げた。マカは暗い道を先に進んで行く。オルクスは、なぜ追ってきたはずのスレイをマカが追っているのか、訳が分からない。

『どうゆうことだ?』とオルクスは再度首をかしげる。

『かくれんぼというのをしているそうだ』とティアが答えた。

『む、手を貸してやるか』

 そう言ってオルクスはマカを追いかけて行く。

『お前は遊びたいだけだろ……』とティアが小さくため息をついてその後ろにつづく。


 マカとオルクスが2人を探していると、そばにあった小屋から話し声がした。マカが窓を覗くと、傘のランプで照らされた空間に、女の子とスレイが座って話をしている。オルクスとティアも同じ窓から顔を覗かせた。スレイはそれに気づいているようだがかくれんぼに意欲を発揮するわけでもなく、気に留めていないようだ。

「お兄ちゃん地上から来たの?」

「ああ」

 マカが見たスレイの横顔はどこか悲しそうだった。

「地上はどんなところ? 太陽ってランプみたいに眩しいの?」

「ランプよりももっと眩しい」

「すごい!目がチカチカなっちゃうね」

「……なるかもな」

 フッと笑って見えたその横顔に、マカは心臓がかすかに締め付けられた感覚になった。

(何だ……笑えるんじゃない)

 マカは自分の頬を両手でぐいっと持ち上げた。

「他には? お兄ちゃんは何が好き?」

挿し絵

「庭園……雨が降ると木や草に水滴がついてきれいだ」

 ドムナ国王宮には専任庭師の手の行き通った芸術ともいえる庭園がある。スレイはその広大な美しさが気に入っている。

女の子に話しながら、スレイは朝つゆに輝く風景の中に、初めて王子と出合い差し伸べられた小さな手と満面の笑みを思い出していた。それは何もかもを失い怒濤に迷っていた幼い頃。



ー お前、ポルコが連れて来た奴だろう?

ー ……何か御用でしょうか、ナムル殿下

ー 今日からお前は私の友だ、固っ苦しい言葉遣いは必要ない


始めは子供ながらの余興なのだろうと思っていた。王子のことを影で”変わり者王子”と呼ぶ使用人もいたくらいだ。


ー 僕は立派な王にならなくちゃいけないんだ、スレイ、背中は預けるからね

ー わかった(こいつは家族の敵……)


暗殺を企て、剣をつきつけたあの日。


ー どうせいつかは死ぬんだから、王位を守ってからでもいいでしょ?

  次の王へ王位を引き継いだらこの首は君にあげるよ


自分の復讐心を年下の子供に見透かされていたことに驚いた。


ー わざと護衛をつけなかったな?

ー 背中を預ける相手に必要ないでしょ


無垢な笑顔の裏に、王の気質が垣間見えたことに拍子抜けし、思わずフッと笑ってしまった。


ー これは精霊水だよ、飲めば精霊の姿を見ることができる、

 "金色の精霊"の居場所を聞いて会いにいって



「スレイってお兄ちゃんのこと?」女の子の言葉にスレイは我に返った。

「ああ、マカに聞いたのか?」

「うん、お姉ちゃんね、スレイにわらーー」

「二人ともみっけえ!」

言葉を遮るためにマカが慌てて部屋に入ってきた。オルクスとティアもいる。

「あ! 見つかっちゃった!」

女の子が驚いている隣でスレイは無表情のままつぶやいている。

「わら……?」

「わら、藁!そう藁靴の作り方を教えてもらおうと思って!」

「藁靴なんて作ったことはないが……そもそも藁は東の大陸でしか採れないぞ」

「あ、うん。本で見たことがあって作ってみたいなぁって、あはは」

女の子は「わーかわいい」とオルクスをなでている。

『ぬはは、役得だな』とオルクスは気持ち良さそうにニヘニヘしている。

『お前は精霊獣ある誇りを忘れてるだろう』

ティアが怪訝な顔で言った。



 

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