home >  novel >  『 マカと精霊の涙 』

第二章 シェンダー鉱山

マカは建物から外にでる。道先は真っ暗だ。

「ワンちゃん、スレイ……」

 不安がこみ上げる、ランプをたどり右へと進んでいった。

『マカ、不安がることはない』

 その言葉がマカの耳に届くことはなく、ティアは悲しい顔をしてマカに抱きよった。

「おねえちゃん! こっちきて」

 道を歩いていると突然小さな女の子がマカの手を引っ張ってきた。

「わ! なに?」

 導かれるまま行った先は一つの建物。

「ここは?」

「私たちの学校よ」

学校と呼ばれる建物は机や椅子はない、唯一、中央に黒板がある程度だった。そこには子供たちがたくさんいた。皆痩せている。10歳にもならない子供が赤ちゃんの世話をしている。

「皆……お父さんやお母さんは?」

「働きにでてるの」

「鉱山に行ったきり返ってこない」

「そんな……」

 マカが思っていたよりシェンダーの現状は酷く、言葉もない。

「おねえちゃん! かくれんぼしよう!」

 マカをつれて来た女の子が飛び跳ねた。


ー 他人の笑顔で救われたこともある。


マカはその曇りのない笑顔をみてスレイが言っていたことを思い出した。

(こうゆうことね……)

「スレイはどうやったら笑ってくれるんだろう。」

マカは思わず口から出た言葉をすぐに訂正する。

「いやいや、別にスレイに笑ってもらったからって何か変わるわけじゃなくて」

「スレイ? だれのこと?」

その様子を女の子が首をかしげて見ていた。

「えっと……あはは、なんでもないわ」

マカは笑ってごまかした。その様子を見てティアは小さく『あの従者のことか……』とつぶやいた。


 

 スレイとオルクスは森を抜けた広場にいた。

「確かにこちらなのですね」

『そうよ、荷馬車はこの先の洞窟を抜けていったわ』

 スレイの耳元で下級精霊である”妖精”がささやいた。妖精ピクシーの大きさは15cm程で、背中に細長い羽をもつ。3匹の内、1匹がスレイの肩に座っている。

「ありがとうございます。感謝します」

 ピクシーは「じゃあね」と言って一緒にいた仲間と木々の隙間に消えた。

『おい小僧、精霊規範の内容わかってるんだよな?』

 スレイは洞窟に向かって歩き出した。オルクスはその後ろを付いて歩く。

「……精霊規範、第一に、人間は精霊と契約をかわすことを禁ず。第二に、精霊と無闇な意思疎通を禁ず。第三に、精霊の姿を見たものは他言することを禁ず……」

『お前は全てに反していないか?』

「あなたと話している時点でそうですね。しかし、契約をかわし使役をしているわけでは無いので影響はありません」

『これが許されるなら、人間は精霊との交流をもっと増やすべきだ』

「それは無理です。紀元前に起こった大天災は、人間が精霊を使役したことによる力の暴走が引き起こしたもの。ご存知でしょう?」

『全てが人間と精霊だけのせいではない! 多族が精霊の力に頼りすぎたのが原因なのだ! 力の暴走で精霊界とのバランスが崩れ、突然精霊界に引き戻された者もいると聞いている……』

「当時がどのようなものかは知り得ませんが、精霊の数が少なくなったというのも本当のようですね。天災前の文献には沢山の精霊が描かれていましたから」

『マカに、ティアと契約させることはできないのか』

 オルクスは自分の願いを口にした。スレイは返事をすることなくオルクスの独り言となった。オルクスは別の質問をぶつける。

『ところで小僧、シェンダーへの道を知っていたのではないのか?』

「場所は知っていましたが数年前に橋が無くなり、行く方法は無くなったはずです。ましてや人が残っていたとは……」

『なるほど』

 スレイとオルクスは洞窟を抜けて茂みに身を潜めた。そこはランプの明かりでやっと脇部分の見える暗い道だった。どうやらシェンダーへの入り口のようだ。

「どう侵入するかですね」

『お前のその格好は目立ちすぎる……女装するのはどうだ?』

「二手に分かれましょう、あなたは右へ」

 オルクスの言葉を冷静にかわし、スレイは一人で左へ進んでいった。その後ろ姿を見ていたオルクスがつぶやく。

『……くえないやつだな』



 

面白かったらクリックお願いします→ NNR:「マカと精霊の涙」に投票

 

スキップ

  

飾り
home >  novel >  『 マカと精霊の涙 』
inserted by FC2 system