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第一章 旅立ちと出会い

 大陸の東に太陽王が統べる国ルーイ、右に月陰王が統べる国ドムナが広がり、それぞれの中心部には王都や街、村などが存在する。

人間と下級精霊獣である動物が一緒に暮らし、街には人々があふれ買い物でにぎわっている。両国の民は、昼の日差しがきついこともあり、頭に布を巻いたり、大きな布を片方の肩に羽織り腰の位置で青銅器でまとめている。今では立ち入り禁止区域になっている鉱山でとれた石を加工した青銅器は、この国の特産品である。

小さい動物は屋内で飼われ、大きな動物は移動用として人間が2人ほど乗れるカゴを引いたり、翼を持つ動物は手紙などの配達をしている。



マカの家は街から離れた森の近くにある一軒家だ。木板でできた壁に、屋根には大きな風車がついていて、地下から生活水をくみ上げている。

学校から帰宅したマカは、入り口の扉から入り、荷物をテーブルの上に置いた。

「母さん、ただいま」

 テーブルの端に置かれた写真立てに向けて囁いた。花が添えられている。他に人の気配はない。マカは部屋着に着替えて夕食の用意をした。

二人分のイスがあるテーブルに皿を並べ、片方のイスに座る。食卓にはスプーンが皿に触れる音だけが響き、無言のまま食事を取る。

「精霊はもう、いないのかな……」

 今日の授業のことを思い出し、顔をフルフルと横に振る。

「いや! 精霊はいる! 母さん、あたし頑張るからね!!」

 マカは棚に大事にしまってあった大きな本を持ち出した。表紙には"精霊図鑑"と書かれている。

「ピクシーにブラウニー、水の精霊に土の精霊……」

 そこには沢山の精霊が描かれている。その絵を指でなぞり、楽しそうに眺めている。

窓からのぞく外は暗くなり、天井の中央にぶら下がっている電光をつけた。この電光は昔、商人から買ったもので、北の大陸では電気製品というものが主流らしい。その源は精霊のエーテらしいが、詳しくは知らない。


コンコン・・・


マカが食べ終わった食器を片付け、食後にホットミルクを飲んでいると、入り口の扉をたたく音がした。

「こんな時間に誰だろ?」

 扉の前に立ち、外に向かって問いかける。

「どちらさまですか?」

 返事は無い。おそるおそる扉をあけると、そこには一匹の犬が座っていた。

「犬だ、どうしたのわんちゃん?」

 犬は四角いものをくわえている。マカは膝を折り、それを覗き込んだ。

「私に? 手紙……読んでいいの?」

犬の口から手紙を受け取ると、ワンと吠えてうなずいた。見たことも無い金色の装飾がされた羊皮紙の封筒。差出人は書かれていないが見覚えのある押印がされている。

「垂れた稲穂の絵……これ太陽王宮の紋章? な、なんで? 何かしちゃったのかな?」

 中身が気になり手早く開けると、中から1枚の短い手紙が出てきた。

「……太陽王側近、王宮使用人取締役?」

マカは一度読んでそう発すると、もう一度、一字一句じっくりと読み返した。そこには母が昔、王宮で使用人として働いていたこと。その娘であるマカに、同じように使用人として働いてほしく、護衛精霊獣を迎えに上がらせたことが書かれていた。

挿し絵

「……使用人って……あたしが?」

「ワンッワンッ」

「お母さん、王宮で働いてたの?」

「え?ちょっと待って……それでなんであたしを使用人に?」

「ワンッワンッ」

「まさか……カエルの子はカエルとか?」

「ワンッワンッ」

「もしや……本当に使用人の娘だからっていう理由なの?」

「ワンッワンッ」

「人違いでもないみたいだし」

「ワンッワンッ」

「……わんちゃん、さっきから『そうだ』って言ってる?」

「ワンッワンッ」

「……えっと、うん。どうしよう」

 犬はマカの服を引っ張りだした。

「え? なに?」

 背中を向けて『今すぐ出かけるぞ!』と訴えているようだ。マカは、犬の背中に太陽王宮の紋章が描かれた甲冑があることに気づいた。

「えっと・・・護衛精霊獣さん? 今から行くの?」

「ワンッワンッ」

 マカはしばらく考え、急に立ち上がる。

「わかったわ! 行く! そうと決まれば準備しなくちゃ! わんちゃん、狭い所ですがとりあえず中へどうぞ!」

 ホットミルクの残りをお皿にそそぎ犬の前に置いたマカは、これからのことを頭で整理しながら急いで出かける支度を始めた。

「いきなり王室使用人って……なんか試験とかないのかな? でもこれは精霊を見れるチャンスかも。火の精霊の加護は今でも続いてるって教科書に書いてあるんだから。まずは王宮内を探索して、いやいや、とにかくここから王宮まで一番早い精霊獣を使っても半日、でも精霊獣借りたりしたら内密じゃなくなっちゃうし、歩いて2日ほどかかるけど……うん、行くしかない!」

 ブツブツいいながら準備をするマカに、明日からの学校について考える余裕はない。頭の中はすでに、もしかしたら精霊を見れるかもしれないという期待でいっぱいになり、ワクワクそわそわしている。

その横脇で犬は身体を伏せて、床に置かれたホットミルクを飲んでいる。

『ホットミルクとやらはうまいのかオルクス? マカはいつも飲んでいるぞ』

ティアが横に座り話しかけた。

『うまいぞ。甘い味がする』

オルクスと呼ばれた犬から低い男の声が発せられている。マカには聞こえていない。

『王宮からの迎えはお前だけなのか?』

『いざとなったらお前もいるからな。人間というのは他国との条約会議や視察なんやらで多忙なのだよ』

『そうか、我の力に期待するなよ。ああ、早く会いたい……』

『今から出れば2日後にはつく、そう焦るな』

『わかっているが、もうすぐ会えると思うと嬉しくてな』

 そういって笑ったティアと精霊獣オルクスは知り合いのようだ。



 

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