home >  novel >  『 マカと精霊の涙 』

『マカと精霊の涙』
の表紙


序章 太陽王と月陰王

 西の大陸の中心部に、隣り合わせになった二つの国がある。紀元前の天災の後、二つの国は貧しさゆえに争っていたが、約30年前に2人の王により休戦となった。

 ルーイ国の王は火の精霊の守護をうけ、両国の民に作物の育て方を教え、魔物から守った。ドムナ国の王は闇の精霊の守護をうけ、夜を不安がる両国の民にランプを与え、経済の発展を促した。互いの王はこの時、太陽のように民を支える太陽王と、月のように温かく見守る月陰[つきかげ]王と称された。


第一章 旅立ちと出会い


両国共立学校 高等部 2年所属  マカ・ラマエール様


お初にお目にかかります。

わたくしは太陽王側近、王宮使用人取締役のーーと申します。

先日、御身の母上オリヴィア様のご不幸の一報をお聞きし、誠に残念でございます。

御身の母上とは十数年前、共に王宮使用人として働いておりました。

マカ様の存続人が他にいないことを知り、

王宮にて使用人として共に働いていただきたく、伝令を出させて頂きました。

つきましては同胞の護衛精霊獣を迎えにあがらせますので、

太陽王宮にお越しください。詳しいことは宮中にてご説明いたします。

なお、このことはくれぐれも内密に、かつ迅速に。

道中お気をつけください。何卒よろしく願います。


太陽王側近 王宮使用人取締役 ーー



 突然届いた一通の手紙。なんの変化もない日々を過ごしていたあたしにとって、それは有意義な旅の始まりを告げるものだった。


 

 ルーイ国の東部の街外れに四階建ての大きな建物が三つ、庭の噴水を中心に円を描くように建っている。均等に並べられた窓に空の彩りが映りこみ、青銅器の細工により、築年数が最近であることを伺わせる。

 南側には円柱で挟まれた正門があり、この国独自の文字で”両国共立学校”、三つの建物には左側から”小等部棟、中等部棟、高等部棟”と書かれている。正門中央の凹みには、2人の人間が背中あわせに立ち、それぞれに麦とランプを手にした様子の彫刻が彫られ、敷地全体を囲む高い外壁とつながっていた。

 正門を抜けるとタイルの道が伸び、噴水のある広場でそれぞれの建物の開口部まで枝分かれしている。

挿し絵

「ふう、だいぶ片付いた!」

 噴水が朝日を浴びてキラキラ輝く中、校内清掃員として働くマカは足元のゴミをホウキで集めていた。

学校指定のブライスに、スカート……ではなく短い股袴[ずぼん]合わせて履いている。清掃中に動きやすくて汚れないためだ。

マカは学費を稼ぐために校内清掃員として働いている。昨年、病弱ながらも一人で自分を育ててくれた母が亡くなり、生活費をかせぐため校内清掃員をしていた老人に声をかけ、学校側からも特例として許可された。

 朝の登校時間になり、生徒が正門から入ってくる。敷地内に小等部から高等部までの生徒が集まるため、登下校時は混雑する。その様子を見て手早くゴミを袋に入れ、その口を結んだ。袋はマカの膝の高さくらいまで膨らんだ大きさで、タイルの上に横たわった。

「マカ! こっちは終わったからもういいぞ!」

 離れた所にいる老人から掃除の終わりを告げられ、軽く手を振った後、片手にホウキ、もう片方に転がっていた袋を持った。



 

面白かったらクリックお願いします→ NNR:「マカと精霊の涙」に投票

 

スキップ

  

飾り
home >  novel >  『 マカと精霊の涙 』
inserted by FC2 system